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名泗コンサルタント 定年制導入無効事件 勝利報告(東海労弁通信NO.154)

kage

2011/11/10 (Thu)

東海労弁通信 NO.154  2011.11.7
http://www.geocities.jp/tokairouben/tusin154.htmより転載

≪事件報告≫
名泗コンサルタント 定年制導入無効事件 勝利報告


漆原由香

就業規則の制定を行うことなく、社内通知なる文書をもって「定年退職制」を導入し、定年年齢到達をもって原告を退職させたことが有効か否かを巡って争われた事案の控訴審で、地位確認と、歩合給を含めた平均賃金によるバックペイの支払いが認められましたので報告いたします。

1 事案の概要

原告(提訴当時61歳)は、不動産の売買、賃貸、仲介および家屋の建売等を業とする名泗コンサルタント株式会社に、期間の定めのない正社員として採用され、営業職(不動産の売買、賃貸あっせん業務、不動産仲介業務)に従事していた。原告に支払われる賃金は、基本給+歩合給(契約報奨金)とされ、歩合給は、物件売買価格の3パーセント(=自社物件の場合)、仲介料の40パーセントとされていた。

名泗コンサルタントには就業規則が存在せず、慣行としても定年制度は存在せず、60歳を超えた人も正社員として働いていた。

ところが被告は、2007年10月、従業員に対し以下の「通知」を発し、この時点で満60歳に達していた原告に対し、定年退職するか再雇用を希望するかの回答を迫った。原告が定年退職を拒否すると、被告代表者は「法律に違反していない。労働基準監督署に聞いてもらってもよい。60歳定年制を決定したので従うように。1か月後の11月20日付けで定年退職とする」と告げ、「定年」を理由として原告を解雇した。原告は本件解雇後ユニオンみえに加入した。

裁判では、定年制導入の無効を主張して、地位確認と解雇日以降の賃金の支払いを求め、そのなかで歩合給(契約報奨金)の支払いを求めた。



題名「社内規定の通知」

【定年制実施要件】

1、定年期日

 満60歳の誕生日までとします。

2、定年後再雇用と退職について

 A 定年後再雇用希望者について

 ① 再雇用希望稟議提出期日は、定年  期日前3か月とします。

 ② 再雇用条件は、面接により個々の  内容を決定します。

 ③ 再雇用者の地位は、随時面接によ  り決定し、1年契約とします。

 ④ 再雇用の契約継続は契約満了日の  1か月前に稟議にて提出のこと。

⑤ 契約継続の場合の条件は、定年時  と同様面接にて決定します。

※雇用契約の為、使用者および被使用者の合意が成立しない場合は、定年時に退職して頂くことになります。(以下略)



2 裁判の経過

(1)第一審(津地裁四日市支部)

ア 本件の主な争点は定年制導入の有効性であった。

被告には定年制を定めた就業規則も慣行としての60歳定年制もなかったところ、60歳定年の「通知」を出すことによって定年制を創出するという一方的な契約内容の不利益変更が手続的にみて違法無効であることは明らかであった。また、実体面でも、本件定年制導入は63歳までの雇用保障を義務づけた高齢者雇用安定法9条1項に違反し、無効であった。

「定年」を理由とする解雇は、つまるところ原告の年齢のみを理由とする解雇であり、かかる解雇に正当事由が認められないことも明白であった。

しかし、被告は、定年制導入の有効性について十分な主張をしないまま、定年制の実質が「退職勧奨の制度化」であり当事者間の雇用契約は合意解約された、度重なる規律違反行為や他の社員とのトラブルのため普通解雇した、あるいは解雇の承認行為があったから禁反言の法理ないし信義誠実の原則により解雇の無効は争えない、などと主張した。

裁判所が十分に争点を絞りきらないまま証拠調べを行ったため、被告代表者だけでなく、被告側従業員に対しても普通解雇事由の有無についいて延々と尋問が行われる事態となった。

イ 平均賃金について

被告は、歩合給(契約報奨金)が「賞与」であり、「売買価格の3%、仲介料の40%」を原則としつつも事業主の裁量によって支給の有無および金額が定められるものであるから、平均賃金算定の基礎とすべきでないと主張した。

ウ 原審では、復職についての中間和解も試みられたが、職務内容、給与、営業活動費・通勤費、就業場所・執務環境については、すべて従前通りとする、ミーティング、会議、社内行事等の出席は他の営業社員と同じ扱いとする、原告が被告へ返還した原告の元顧客を速やかに原告に戻す、本件を理由として不利益な取り扱いや差別扱いをしないという和解案を被告は受け入れず、決裂した。



(2)第一審判決(2010年9月27 日言渡)

ア 争点1(本件労働契約の終了の法的評価)について、第一審判決は、本件規定が「定年によって当然に労働契約が一旦終了することを明らかにし、そのことを前提にした上で、別個の労働契約としての再雇用について定めたものである」ことを認め、再雇用については「再雇用されることが原則であるとの記載はない」として、本件規定による「定年制」とは60歳という年齢の到達を理由として労働契約が当然に終了すると定めたものであり、本件労働契約の終了原因は「定年退職」又は「定年解雇」と評するべきであると判示した。被告の主張する「退職勧奨の制度化」については、明確に否定した。

 そして、被告の合意解約の主張については、前提としての「退職勧奨」が認められないことに加え、原告の「辞めさせてもらいます」との発言は、再雇用の合意をしなかった原告が被告との労働契約がなくなることを「辞める」と表現したに過ぎないとして、否定した。

  さらに、普通解雇については、解雇の意思表示が存在していないとして退けた。これを踏まえ、争点2(本件労働契約の終了の効力)について、労働条件の一方的な不利益変更に当たり無効であることは明白であると判示した。争点3 (解雇承認法理の適用)については、原告が挨拶回りをしたり退職金を受け取ったりした行為は、本件定年制の導入が有効であるという誤信に基づくものであることが明らかであり、同法理の適用はないと判断した。

イ しかし、争点4(平均賃金の額)について、原判決は歩合給が営業担当者の実際の業績に応じて支払われるものであること、「原告に労働契約上の地位が認められるとはいっても、原告は現実に労働を提供してきたわけではない上に、月額27万円という給与の額は、昨今の経済情勢に照らしても不当に低額であるとはいいがたい」ことを挙げて、平均賃金への歩合給の算入を否定した。



(3)第一審判決の評価

 原判決は、地位確認については全面的に原告の主張を認容したが、平均賃金の算定に歩合給を含めない判断をした。

 しかし、「現実に労働を提供してきたわけではない」から算定に含めないというのは、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」の定めに反する。また、基本給+歩合給という賃金体系の場合に、基本給が低額ではないからといって歩合給を平均賃金の算定基礎から除外するという理由が成り立つわけもない。

さらに、被告会社においては、営業職は全員基本給+歩合給という賃金体系となっており、そのうち歩合給の割合の方が基本給の割合より高いのが通常であった。原告自身の年収における歩合給の割合は常に60%を超えている。そもそも営業職は、契約を締結すること自体が業務なのであるから、業務を遂行すれば歩合給は必ず発生するのである。無効な定年制導入という違法な就労不能がなければ従前と同程度の歩合給を取得できたと推測することは上記平均年収を勘案すれば不合理ではなく、賃金と同様に危険負担の原則によって被告に対する賃金請求権を失わないと解すべきであった。よって、契約報奨金を賞与ではなく賃金であると認定しておきながら、敢えて平均賃金からこれを控除した原判決は是認できないものであった。



(4)控訴審(名古屋高裁民事第3部)

被告(控訴人)が控訴したため、原告(被控訴人)は、平均賃金の額について付帯控訴した。

被告(控訴人)は和解に応じる姿勢を見せず、審理の終盤になって、就業規則が制定施行された2009年4月1日からは、定年退職により従業員の地位にはないとの主張を予備的に追加した。



(5)控訴審判決(2011年8月12日言渡)

地位確認の点については第一審判決が踏襲された。新たに追加された予備的主張については時期に後れた攻撃防御方法として却下された。

そのうえで、平均賃金の額については、被告(控訴人)において従業員の業績に対する評価を踏まえた裁量による部分が存在するとは認められないことや、契約報奨金が原告(被控訴人)の賃金の約65%を締めることを勘案すれば、平均賃金を算定するためには、契約報奨金を含めて判断するのが相当であると判示した。

3 判決後の復職

被告は、控訴審判決を不服として上告しながらも、バックペイを支払い、原告を復職させることを認めた。すでに原告は会社に通勤しているが、被告代表者から労働条件を切り下げると言われたり、他の従業員の前で本件裁判に関して侮辱・批判される等の嫌がらせを受けている。今後は、労働組合の団体交渉を通じて、原告の健全な職場環境を獲得していく必要がある。

本件で、法を無視した定年制の導入により従業員を狙い撃ち的に解雇することの違法性が確認されたのは当然として、高齢者雇用の安定を図る観点からも、定年制の導入に厳格な法規制があることが改めて確認された点で意義ある判決となった。

(担当は、福井悦子、中谷雄二と漆原)



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